先日、公開されたばかりの 『TOKYOタクシー』 を鑑賞してきました。
予告編の映像美、そして山田洋次監督作品ということで期待を胸に映画館へ。何を隠そう私は「男はつらいよ」の大ファンで、シリーズは全作制覇。一時期葛飾区に住んでいたこともあり、2019年公開の『男はつらいよ お帰り 寅さん』はエンドロール中ずっと涙が止まりませんでした。
『学校』シリーズや『たそがれ清兵衛』も大好きな山田洋次監督ファンとして、今回の映画に寄せる期待は大きかったのですが、鑑賞後に残った想いを少し整理したく、ここに綴っておこうと思います。
※以下、ネタバレを含みます。
■ あらすじ(ネタバレあり)
タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、妻・薫(優香)、中学3年生の娘・奈菜(中島瑠菜)と暮らしています。娘は音大付属高校への推薦を希望しているものの、入学金や授業料に思いのほかお金がかかることに愕然。また車検代、家賃更新料など、家庭の金銭的な悩みは尽きません。
そんなある日、友人(電話の声:明石家さんま)から85歳のマダム・高野すみれ(倍賞千恵子)を東京・柴又から神奈川・葉山の高齢者施設まで送る仕事を持ちかけられます。
葛飾・柴又、帝釈天前。すみれを乗せた宇佐美のタクシーは、こうして静かに走り出します。
すみれは「東京の見納めに」と思い出の場所へ寄り道を依頼。そこで語られ始める彼女の人生。
最初の寄り道先は言問橋。東京大空襲で父を亡くした場所でした。
■ すみれの壮絶な人生
若き日のすみれ(蒼井優)は在日朝鮮人2世の青年(イ・ジュニョン)と恋に落ちます。しかし彼は朝鮮戦争後、祖国再建運動に参加するため北朝鮮へ渡ります。その時すでに彼との子どもを身ごもっていたすみれは、シングルマザーとして息子・勇(木村優来)を育てる道を選びます。
母(菅野三鈴)の店を手伝いながら一人息子を育てていたすみれですが、やがて客の小川(迫田孝也)という男性と再婚します。が、彼は独占欲が強く、すみれへの暴力に加え、勇にも手を上げるようになります。息子への暴力を知ったすみれは、小川に睡眠薬を盛り、熟睡した彼の下半身に熱した油をかけるという行為に及びます。
小川は一命を取り留めるものの、すみれは殺人未遂で懲役9年。
その間、成長した勇はバイク事故で亡くなってしまいます。
■ すみれと宇佐美、心の距離が縮まる旅
すみれの過去に耳を傾けるうち、宇佐美も自身の妻とのなれそめを語り、二人のあいだに静かな連帯感が生まれていきます。
だいぶ寄り道をして時間が経ってしまい、施設から「夕食の提供ができない」と連絡が入ったため、二人は横浜のホテルで食事をすることに。すみれの美しいネイルを褒める宇佐美。実はすみれ、出所後に単身アメリカへ渡りネイルを学び、帰国後にサロンを開業していたのでした。
その後、娘から頼まれたシュークリームを買いに街へ出かけ、すっかり打ち解けた様子の二人。しかし旅は終わりに近づきます。
施設へ到着したすみれは、物寂しさに心が萎え「今日はホテルに泊まりたい」と訴えます。しかし宇佐美は職務を全うしようと「わがまま言わないでください」とかなり強い口調で言ってしまいます。
タクシー代を渡しそびれ慌てるすみれに対し、宇佐美は「今度、妻と面会に来ます。その時でいいですよ」と告げ、別れます。
■ そして、突然の別れ
一週間後。夫妻で施設を訪れると、すみれは心臓病が悪化し、二日前に亡くなったと知らされます。葬儀に参列した宇佐美は、司法書士・阿部(笹野高史)から「すみれさんからあなた宛てに遺言を預かっている」と告げられます。
手紙には、あの日のタクシー旅への感謝、そして店と家の処分金を宇佐美一家に託す旨が書かれていました。
タクシー代はもちろん、家賃更新料、車検代、娘の進学費用、そして「ヨーロッパを旅して本物の芸術に触れさせなさい」と。
驚きと戸惑いの中、帰りの車で宇佐美はあの一日を思い出し、最後にすみれのわがままを叶えてあげられなかったことを後悔します。職務を全うして一線を越えなかった宇佐美の判断を妻は尊重しますが、宇佐美の目からは涙がとめどなく流れるのでした。
■ 映像美とテーマ、そして自分の“もやもや”
東京から神奈川へ、すみれの人生をなぞるように流れていく景色。その映像の美しさは、さすが山田監督だと感じました。人生の折り返し地点を過ぎ、独り身の自分の老後にも自然と想いがめぐり、人生の終わりをどう迎えるのか考える時間にもなりました。
ただ、どこかで 誰にも深く感情移入しきれなかった 自分がいて、劇場を出たあとに残った“もやもや”。
この感覚は何なのだろう?
映画の善し悪しではなく、“期待とのズレ”から来る違和感だったのかもしれません。
次回、「こういうストーリー展開や登場人物だったら違ったかも」というものを、私なりの感覚で考えていきたいと思います。


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