前回の記事では、映画「TOKYOタクシー」のネタバレありあらすじをお届けしました。
山田監督ファンでありながら、どこかもやもやした気持ちをぬぐい切れないまま劇場を後にしたわけですが、今回はその原因を考えてみたいと思います。
時代や世相を反映しようとした映画だったからこそ、「こういうストーリー展開や登場人物だったら違ったかも」というものを、私なりの感覚で考えていきたいと思います。
■穏やかな終活ロードムービーを期待していたから当てが外れた?
■登場人物・ストーリーにリアリティがない?
■こんな宇佐美さんやすみれさんだったら共感できた?
■穏やかな終活ロードムービーを期待していたから当てが外れた?
高齢者施設に向かう老婆の、人生の振り返りとともに美しい風景が流れていく。そんなストーリーを期待していたのですが、すみれさんが結構激しい性格の女性だったからか感情移入ができず置いてけぼりにされた感覚がありました。
そしてこれは、すみれさんだけでなく、登場人物全員にリアリティを感じにくかったという点が大きかったように思います。
■登場人物・ストーリーにリアリティがない?
まずタクシー運転手の宇佐美ですが、「金銭的に困っている」という設定のわりに、住んでいる家も綺麗で広く、衣服も小ぎれい。
お金に困っているといっても、その立派な家の“家賃更新料”や“娘の私立高校進学費用”が悩みの種というのは、本当に貧困状態の家庭とはズレた悩みに感じてしまいました。
また、元学習塾勤務の身からすれば、中3の秋の時点で公立・私立含め高校進学にお金がどのくらいかかるかは家族で話し合って知っているはずでは? という疑問が。本当にお金に困っている家庭であれば子どものほうがもっと遠慮しているし表情も暗いんですよね(中島瑠菜さんの演技は好きです、念のため)。
そう考えると、妻役の優香さんの演技が一番リアルで良かったという印象すらありました。
最後にすみれさんの遺産を受け取り、すべてが丸く収まる展開になるわけですが、宇佐美家は「そこまで恵まれない家庭」には見えず、私はラストで素直に感動しきれない自分がいたのです。
そして主人公のすみれさん。
戦後を生き抜いた女性…という語りでありながら、描かれたすみれさんの若い頃は、
・子どもを預けて恋愛に走る
・“クズ男”を引き寄せてしまうような無防備さ
・DVへの報復として犯罪に手を染める
という非常にドラマ的な展開。
店の客(小川)と良い仲になり、子どもを母親に預けてデートにかまけてしまう姿に違和感を禁じえませんでした。戦争を体験して命の危うさ・尊さを理解しているはずの女性が、まして命がけで北朝鮮に渡った愛すべき人との間に子どもを授かった女性が、その子どもを置いて盲目的な恋愛に陥るかしら? クズ男を「引き寄せ」たのはそういう自分だからじゃないの? という引いた目で見てしまいました。そしてDVへの報復。子どもの将来を考えたら、「犯罪者の子ども」として肩身の狭い思いをさせてしまうことを考えなかったのかしら? 女性蔑視の時代背景を伝えたいというのは分かりますが、同じような境遇で耐え抜いた女性たちは多かったはずで、だからあのような暴力的な行動を取るのはリアリティが感じられません。たいていの人は刑務所にお世話になるような犯罪は行わないわけで、だからこそ知恵と忍耐で人生を渡り歩いてきたはずで、そうやって昭和、平成、令和を生き抜いた女性像のほうが共感を抱きやすかったのでは…という思いが残りました。
■こんな宇佐美さんやすみれさんだったら共感できた?
では、どのような宇佐美さんやすみれさんだったら共感できたのか。
あくまでも個人の意見です。
まずこの映画の視聴者層を考えてみました。終活を迎えるすみれさん世代、そんなすみれさん世代の老後を見る宇佐美さん世代、つまり40後半以降の方々が自分の人生と照らし合わせて感情移入する映画だと思います。
そう考えると、やはり日本人の美徳(といわれている)「忍耐」を知っている最後の世代ではないかなと。
自分がやりたくてもできなかったことの後悔と、それができている下の世代への嫉妬と、それでも忍耐と苦労が自分を成長させてくれたことを信じている、もしくは信じたい世代。
そう考えると、以下のような世界線に生きた宇佐美さんやすみれさんならどうでしょう?
〇宇佐美さん
50代前半のお金に困っている男性、という映画の設定にリアリティを持たせたいなら、もう少し古いアパート生活でぎりぎりの暮らし。
高校時代のエピソードから、割と引っ込み思案なタイプと思われます。そんな彼がクラスの人気者と付き合うことができた。頑張って偏差値の高い大学に行って大手企業に勤務して稼ぐぞ、と思っていたら就職氷河期。結局新卒では中小ブラック企業に勤務。慣れない仕事、会社付き合いも奥さんのためなら! と頑張ってきたが、リーマンショックの影響で解雇され、転職。ちょうどそのころ娘が生まれたという計算ですね。2010年代のどこかのタイミングでタクシー運転手に。
タクシー運転手という仕事に誇りを持っているタイプ。給料は安いが人の役に立っていることに喜びを感じられる。不器用だが客商売としての愛想はある。今にも子どもが生まれそうな妊婦を乗せて病院に担ぎ込み、タクシー代をもらい損ねて帰ってくる、なんてエピソードもあるとよいかも。そんな「稼げないけど人のいいおっちゃん」を献身的に支える妻。宇佐美のイメージはどちらかというとキムタクと同年代の俳優でいうなら大泉洋や阿部サダオ、安田顕、少しクールだと大沢たかおや西島秀俊など。
娘には音楽の才能があったが芸術系に進ませるお金もなく。娘はYouTubeで楽器の練習方法を研究して努力する健気さ。自分の境遇を理解して私立高校の推薦を辞退。娘の抑制を知って嘆く宇佐美。娘の夢を叶えるため、私立の学校に通わせたいと家族会議。娘は「高校は公立に行く。音大にはいきたいから高校でアルバイトする」とまで覚悟を見せる。
「そこまで気を使わせてすまん、それまでに頑張って稼ぐから」という正直さが宇佐美にはほしいかな。
そんな中妻の体調が悪くなり妻のパート分収入ダウン、親の介護問題発生、など。
こういう苦労が重なって、そろそろ疲弊していたところに素敵な出会いが、という展開なら、ラストも「ずっと頑張ってきた家族に、思いがけず届いたギフト」として胸に迫るものがあった気がします。
では、次回は「こんなすみれさんの設定だったら共感できたかもしれない」について考えてみます。

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