前回からフロイトの「防衛機制」を取り上げています。個人が「こうありたい」「こうなりたい」と思いながら外界からのストレス(厳しい親や世間体など)にさらされたときに、心を守るために起こす行為のことをいいます。大きく分けて以下のように分類できます。
・良い防衛機制=こちらでお話ししている防衛機制が使えている状態は、メンタルも良好。
・神経症的防衛機制=以下にお話しする防衛機制を頻繁に使ったり柔軟性を失ったりしている場合はメンタルヘルスの問題が出てくる可能性があります。
・未熟な防衛機制=パーソナリティ障害の診断基準に見られるものが含まれますので注意が必要です。
・精神病的防衛機制=精神病発症の疑いがある行為。
<神経症的防衛機制>
一見「大人な対応」や「いい人」に見えますが、まさに心を「防衛」している状態であり、これらが頻繁に出てきたり柔軟性を失っていたりするとメンタルヘルス的な問題が生じる場合があります。
「抑圧」=苦痛な感情や記憶、受け入れがたい欲求などを意識から排除して無意識の中に押し込めてしまうこと。
気乗りしない約束事を忘れてしまうようなことがあります。相手が嫌い、約束事を本当はやりたくない、など無意識レベルで対象を嫌っているのかもしれません。
前回ご紹介した「抑制」は「嫌い」や「やりたくない」ということを意識したうえで表に出さないように自分の感情と折り合いをつけていたので「大人の対応」といえるのですが、「抑圧」の場合は嫌悪を無意識下に押し込めてしまう故に起こっていることですので、あまり良い心の動きとは言えないでしょう。
「否認」=出来事の一部や全部を否定し、存在しなかったことにする。
ゲーム依存の子が「いつでもゲームを辞められるので問題ありません」と現実を否認する、喫煙者が「いつでも辞められるから」と言って吸い続ける、などがこれに当たります。
「反動形成」=苦痛な感情や受け入れがたい欲求を抑圧し、反対の方向の態度をとること。
気になる異性にわざと意地悪をする、というのはかわいい例です。大人になってからも、苦手な相手に対し過剰に仲良く接してしまったり、逆に丁寧すぎるほどの敬語を使ってしまったりすることがあります。仕事以外でできるだけ関わりを持ちたくないという心がそうさせている可能性があります。いずれにせよ不自然で、知らず知らずのうちにストレスが溜まっている可能性があります。
「置き換え」=本当の欲求を抑圧し、身近で手に入れられる欲求を満足させることで充足すること。
旅行に行きたいけどいけないので旅の動画を見る、といった例が考えられます。
「合理化」=満たされなかった欲求に対して、もっともらしい説明を付けることで認めがたい現実から目をそらす。
失恋した時に「あの人とは釣り合わないから交際できなくてよかった」と思う。また会社を辞めるときに「あの会社には先がないから辞めてよかったよ」と言う。「あの人」と釣り合う努力はしたのか、会社を辞めるときに引き留められなかったとしたら、会社があなたを必要としていなかったのではないか、など、現実を直視することから逃げている可能性があり、これも心の姿勢としては良いものとは言えません。
「同一化」=取り入れともいう。自分にとって大切な人の一部の特徴あるいは全部を自分の中に取り込む、あるいは同じものだとしてふるまう。
憧れているアイドルと同じ髪型にする、というのはまだかわいいもので、暴力的だった父親と同一化し、他者に暴力的に接することで力を得たような気になる、という厄介なものもあります。自分がされた嫌なことを、立場が同じになった途端やってしまうのも心の動きとしては良くありません。
とはいえ昭和から平成にかけては頻繁に起こっていたことでしょう。厳しさとパワハラの間で悩んでいる管理職の方は多いと思いますが、まさに私の世代が時代の過渡期だと思います。先輩や上司の理不尽な要求や暴言を経験しながらも、同じことをしたら突き上げられる時代です。一昔前大手広告企業で過労や上司からのパワハラを苦に自殺した20代の方がいましたが、その時私が感じたことは、自殺した方は当然かわいそうですが、その上司も、自分がされてきたように後輩と接してきただけなのかもしれないなあと思い、悲しくなった記憶があります。
「補償」=ある部分に劣等感を感じている場合、他の部分を優位にしたり、優位に立ったりすることで劣等感を埋め合わせようとすること。
勉強が苦手だからスポーツに打ち込む。これも前回の「昇華」との区別が難しいですね。勉強に挫折してスポーツや芸能に打ち込むのはよく見られる現象です。新しいことを始めるときに、そちらへ行くのに「逃げ」の気持ちが自分にないかどうかを点検することは大事です。
「知性化」=感情や欲求、葛藤などを意識化して解放するのではなく、知識を集めたり抽象化したりする知的態度をとる。
例えば自分がミスしていたり未熟であったりするにも関わらず、上司に認められないことで落ち込んだり無力感に苦しめられたりすることに対抗するために、インターネット等で組織論やリーダーシップ論を学んでその意見を上司にぶつける、もしくは仲間内で「あの上司は分かってない、大したことない」と悪口を言う、など。
自分が初心者や初学者の時は、自分の欠点や過ちを素直に認められないものです。これまでの経験とは異なる知識や体験に戸惑うことはあるでしょう。しかしそれらを「自分の視野を広げる」学びだと思って「いったん受け入れる」ことができたときに、人は成長できます。そして受け入れた後に、知識や経験を得てもやはり「違うな」と思えば、その時に別の道を考えればよいのだと思います。
上記のような防衛機制はあまり良い心の動きとは言えず、知らないうちにストレスをため込んでいる可能性があります。
自分の心が乱れていると感じたとき、振り返りの材料として使ってみてください。
次回は4月20日更新予定です。
<本コーナーの対象と目的>
このコーナーでは、心身の不調を感じている方が自身の状態をセルフチェックするための手法をお伝えします。これからお話するのは、これまでごく一般的に(「一般的」の定義も難しいですが)生活してきたが心身の不調を感じている、18歳以上の成人の方を対象とします。
その方々が自身の不調の原因を自分で探るための心理学的な知識、自分と向き合い心を軽くするためのキャリア理論、心理学的な理論などをお伝えし、「自助」ができる手段を示すことが目的です。
あくまでも環境や役割の変化をきっかけに心身に不調をきたしている方が、自分でその原因や状態を分析する「自己アセスメント」の手法と、理論や考え方を身に付けて心身の不調と向き合うための「自助」をアシストすることを目的としますので身体的、精神的疾患が疑われる場合は必ず医療機関を受診してください。


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