【小説・サクラサクまで12】新規入会面談1 子どもたちの無限の可能性

小説・サクラサクまで

2023年の10月以来、新規面談には常に妙恵が福永に同席している。事務的な話を福永が、教務的な話を妙恵が行う役割分担ができていた。

面談に訪れた親子に対して二人が名刺を差し出し、親にアンケート用紙を記入してもらう。アンケートには子どもの氏名、学校名、学年、住所、電話番号といった個人情報の他に、塾を知ったきっかけや塾を探そうと思ったきっかけを書く欄が用意されている。

その間に妙恵は生徒とお話をする。たわいもない部活動の話などで盛り上がる。しかしその際、できるだけ生徒の褒めるポイントを探しているそうだ。相手に心を開いてもらうためにはそれが一番だと、妙恵は福永に語っていた。

 

最初に面談の方針を語り合った時のことである。

「子どもたちはみんな素晴らしい才能を持っているんです」

妙恵はそう言い、スマホのフォトライブラリーからいくつかの写真を見せた。

「私が中学、高校で知り合ったすごい人たち!」

と言ってライブラリをスライドさせていく。

ノートの切れ端で見事に折られた恐竜やバラの花が現れた。

「すごいでしょ、折り紙の天才! あと、これ!」

見ると今度は動画だ。オフィスチェアが片足だけで立って歓声に包まれている。動画は15秒くらいだが、その後もバランスを崩す気配もない。

「なに、これ・・・・」

「理科で「力」の勉強をした同級生がね、支点とか作用点とか考えれば椅子が片足でも立つんじゃないかって閃いてチャレンジしたんです」

「すげえな・・・」

福永は心から感心した。

妙恵は次々とスマホをスライドさせていく。

妙恵そっくりの似顔絵、写真と見間違えるほど美しい風景画、有名人の特徴を捉え漫画チックに描写された似顔絵・・・、すべて同級生や後輩たちの作品らしかった。

「あとはこんなのも」

見ると栄養ドリンクの箱、その上に付箋がはってあり、「コロナに負けるな、田中先生!」と書いてあった。

「高校1年の時、コロナ騒動で学校が休みになった時にクラスメートたちが担任の先生に差し入れした時の写真。コロナの時学校が休校になったじゃないですか。でも学校の先生たちはいろいろ事務仕事があってほぼ連日学校に行っていたんですって。あの頃は移動がダメだって言われてたから、家が遠い担任の田中先生は学校に泊まり込むこともあったらしいんです。それで、心配した男子生徒たち(これがけっこうやんちゃで有名な男子軍団なんですけど)が校門前に置いて行ったらしいんですよ」

学校に電話を入れ、田中先生に校門前まで来てもらったらしい。あの頃は「接触」がいけなかったから、田中先生が校門前の荷物を取りに来たタイミングで駆け出し、遠くから「頑張れよ!」と声をかけたとか。なかなかほほえましいエピソードだと福永は感じた。

「とにかく、子どもたちって、色々な才能を持ってるんです」

妙恵がスマホを胸の前で抱えて言った。

「でも塾に来る子は何かしら勉強に対してコンプレックスを持っています。素晴らしい才能があるのに、勉強ができないっていうだけで自分に自信を失って、できる事とか自分のいいところを忘れちゃってるんです。ノートの切れ端であんな複雑な折り紙ができる子が、空間図形のセンスがないと思いますか?」

「いや・・・」

「リアルな似顔絵、漫画チックな似顔絵とか風景画が描ける子が観察眼がないと思いますか?」

「いや・・・」

「勉強ってお手本の真似から入るでしょ? 特徴を捉えることが得意な観察眼のある子が勉強できないと思います?」

「思わないね」

「椅子を片足で立たせたあの子が理科苦手だと思いますか?」

「思わない」

「それに、先生が大変だろうなと想像して差し入れするような子たちが、本当の意味で「読解力」がないと思いますか?」

「思わないね」

「ね。みんな素晴らしい土台というか、可能性を持っていると思うんです。少なくとも生きていくうえで必要な心遣いとか対応力とかはあると思う。それが、何かの拍子で勉強についていけなくなって、テストの点だけで評価されることが続いて自信なくしちゃってるだけなんです。そういう子たちが、何とかしたいと思って出会いに来たのが私たちなんだと思います」

妙恵の目が熱を帯びてきた。

「できているところ、素晴らしいところはちゃんとある。全否定じゃなくて部分否定に持っていくんです。最初の面談で一つでも褒めるところを見つけて、まずは自分のいいところ、できているところを思い出してほしいんです」

実際の面談で妙恵はその信念を守り、相手のいいところを見つけようと会話をしていた。また相手への「労い」も忘れない。

体の小さな男子中学生が面談に訪れたとき、バレー部所属だと聞いて妙恵は質問した。

「ポジションは決まってるの?」

「はい、リベロやってます」

「リベロか。拾う専門のポジションだ。結構動き激しいでしょ」

「はい」

「バレーボールってボールを落とさなければ勝てるゲームだからね、実は結構重要なポジションだよね」

「はい、地味ですけどね」

「でもメッチャ大事でしょ。リベロがちゃんとしているとアタックもブロックも安心して思いっきりできるんだろうね」

「だといいんですけどね」

彼は少し照れたような表情でうつむいた。

バレーボール部と聞いた瞬間、妙恵は入ってきたときの男子生徒の背を思い出していたに違いない。あまり高くなく派手な活躍がイメージできなかったがリベロなら身長はそこまで気にしなくていい。むしろ機敏さのほうが重要だ。そしてバレーボールといえば派手にアタックやブロックを決める姿が注目される競技だ。話し始めの彼の様子から、普段あまり注目されず、ほめられることも少ないのではないかと感じたのだろう。だから今の妙恵の発言は彼の自尊心をくすぐっただろうな、と福永は思った。この子の気遣いというか観察眼には本当に適わない、と福永はいつも感心させられていた。

<続く>

次回は10月18日配信予定です。

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