【小説・サクラサクまで9】中学3年生V模擬2 都立入試に必要な内申点の計算方法

小説・サクラサクまで

2023年10月初旬、福永の「旬学舎」塾長就任後初の問い合わせは公立中学3年生の鈴木一郎だった。

福永は絶望的な成績を見て「お断り」を決めるも、妙恵は高校合格の可能性を口にした。

「ところで一郎君、この杉並高校が第一志望っていうのは何か理由があるの?」

妙恵が尋ねる。

「今の学力で行けそうな高校で大学行けるところここくらいかなって思って。あと部活強いんで」

「高校行ってもサッカー続けたいんだ?」

「はい」

「大学って話あったけど、どこ目指してるとかある?」

「まだ考えてないですけど、とりあえず大学には」

「そうか。だとしたら、確かに高校の偏差値は大事だね」

妙恵は「声の教育社」から出ている高校受験案内を取り出し各学校の進学率を比べてみた。ほぼ偏差値の順番に比例する。

「一郎君の言う通り、高校の偏差値は考えた方がいい。学校の環境が違うんだ。上の高校に行けば行くほど進学希望者が増えるのは当然だからね。では、一郎君が第一志望に合格するためにどうすればいいのか、一緒に考えていこうか」

福永はだんまりを決め込んだ。少なくとも20年近く勉強から離れている福永より、つい最近高校受験を終えたばかりの妙恵の方が詳しい話はできるだろうと考えた。

「ここに来る前にいくつか塾さんを回られたとおっしゃっていましたが、模試の見方やこれからどういう勉強をしたらいいかという話をしてくれた塾さんはありましたか?」

妙恵は母親に尋ねた。

「いいえ、どこも結果だけ見て、「これはたくさん勉強しないと」、と」

だろうな、と福永は思った。

「確かに、「たくさん勉強しろ」というのはうちでも同じです」

妙恵も同じようなことを言った。そして一郎に顔を向ける。

「ただ、この時期だからね。無駄なことをやっている時間はないから、何をどうたくさん勉強したらいいのかを一緒に考えよう」

そう言って妙恵はA3の用紙を取り出した。

「まず、これをご覧ください」

声の教育社から出版されている都立過去問に付いていた進学研究会(V模擬の運営会社)の「合格のめやす」をコピーしたものだ。

「ここにあるのは都立の普通科の高校の一覧です。お母様は都立受験についてはご存じですか?」

「いいえ、地方出身なものですから」

「そうでしたか。ではご説明します。左側に「総合得点」と書いてありまして、これが1,000点満点になっています。ただし2022年度入試から開始されている英語のスピーキングテストのスコアは入っておりません。スピーキングテストに関してはまた機会がございましたらお話いたしますね」

おそらくその機会はないけど、と福永は心の中でつぶやく。

「このうち成績表の数値を点数化したものが300点当日の国数英社理5教科の学力テストが700点で計算されます。杉並高校をご覧ください。630点と書いてあります。これは、内申点と当日の学力試験を合わせて1,000点満点中630点取れれば合格が見えてくる、ということです」

マーケティング会社では資料の見易さというのも重視されていたな、とふと福永は前職時代を思い出した。あの会社でも通用するくらい妙恵の説明にはそつがないと思った。

「次に縦にだいたい10列に区切られていますが、こちらは地域を表しています。基本的にこの地域にお住いのお子様は左から3列目の杉並区、練馬区の欄をご覧ください。ただしこの富士見ヶ丘駅周辺は交通の便がいいですから、世田谷区や目黒区の駒場高校や目黒高校、広尾高校、松原高校なども行きやすいですし、明大前駅や下北沢駅から乗り換えて調布市の調布北高校、調布南高校、神代高校、狛江市の狛江高校などにも足を延ばせる場所ではあります」

「調布南高校って聞いたことあります」

一郎が口をはさむ。

「サッカー部あるよね」

「はい、中学の先輩が何人か行ってます」

「希望の通学時間次第だけど、意外といろいろな地域に行きやすい場所だからね。選択肢は杉並高校だけじゃなくてあると思うよ。ちなみに調布南高校の基準点は720点だから杉並高校より100点近く高いね」

妙恵は頷いてから続けた。

「さて、まずは一郎君の内申点が300点中何点あるかを計算してみよう。音楽、美術、技術家庭、保健体育のいわゆる「実技4教科」は足し合わせて2倍するんだ。一郎君は体育が4だから、3+3+3+4=13。これを2倍して26だね。あとは英数国理社の数値を足す。そうすると41って数字になる。この実技4教科を2倍するのを「換算内申」っていう言い方をするよ。計算すれば分かると思うけどオール5だと換算内申の合計は65になるから、一郎君の換算内申は65点中41ってこと」

「さて、内申点というのはこれを300点満点にすることだから、計算式としては41/65×300。電卓使おうか」

福永が電卓を妙恵に渡す。

「そうすると・・・、189.2307・・・。小数点はどうするか分かる?」

「切り上げ?」

「残念、切り捨てるんだ。だから189点。つまり、一郎君の内申点は300点中189点ってこと」

「つまり目安の630点のうち189点持った状態でテストを受けると」

母親が口をはさむ。

「そういうことです。では当日国数英社理で何点取ればいいか。基準点630-内申点189で441点。ただし、これは700点中だからね、一郎君。1.4で割れば500点満点の数字が出てくる。441÷1.4=315点。それを5(教科)で割ると・・・ちょうど63点。つまり、1科目当たり63点取れれば合格が見えてくるってことだね」

「そうなんですね」

母親が興味深くうなずく。そして聞いた。

「あの、それじゃ都立入試の平均ってどのくらいなんでしょう?」

「今の高1、つまり2023年度入試が316.2点、1教科あたり約64点です。2022年度入試は299.5点で1教科あたり約60点。だいたい1教科60点程度が平均といったところです」

「では、だいたい平均点くらい取れる実力を付けられれば、まだ可能性はあるということでしょうか」

あれ? 意外とこのお母さん数字に対する勘がいいぞ、と福永は思いながら聞いていた。

「そういうことです。では、都立入試で平均くらいを取れるようになるために、今の時期に模試の後にすべきことをお伝えしてもよろしいですか」

妙恵の論理的な説明を受けて母親はわずかながら何か光を感じ始めているらしい。

福永の目からも、妙恵の姿が頼りがいのある「軍師」に見え始めていた。

 

 

<続く>

次回は10月15日更新予定です。

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