「では、都立入試で平均くらいを取れるようになるために、今の時期に模試の後にすべきことをお伝えしてもよろしいですか」
妙恵の論理的な説明を受けて母親はわずかながら何か光を感じ始めているらしい。
福永の目からも、妙恵の姿が頼りがいのある「軍師」に見え始めていた。
「はい、お願いします」
心なしか母親の目が生気を取り戻しているような気がした。
「では、こちらをご覧ください」
妙恵は模試結果1枚目の裏面を二人に見せた。

(進学研究会HPより)
「これは、各問題の正答率と一郎君の正誤表です」

(進学研究会HPより)
「正答率90%というのは、100人中90人が正解できる問題、正答率20%というのは100人中20人が正解できる問題。一郎君、難しいのはどちらだと思う?」
「正答率20%」
「その通り。そして右側には正答率のグラフ、その右に「正誤」とあります。ここに〇が付いているものは一郎君が正解したもの、×が付いていれば間違えたものね」
細かい表記のため、母親が目を近づける。福永にとっても見えづらいことこの上ない。年かな・・・。
「一郎君の場合、正答率が高くて間違えてしまった問題、つまり周りのみんなは正解しているのに一郎君はできなかった問題というものを優先して復習すればいいんだ。あくまでも目安だけど、「100-志望校の偏差値」。杉並高校の60%合格ラインの偏差値が46だから、100-46=54、すなわち、正答率54%以上の問題で間違えた箇所を取れるようにすることを目安にするといい」
「なるほど」
母親が答えた。反応はいい。一郎はよく分かっていない様子だが、妙恵は続けた。
「そうはいってもおよそ2人に1人の正答率。さすがにいきなりこれは正直きついでしょう。そこで、まずは正答率70~80%以上の問題で×が付いているものをできるようにしてみよう。いくつある?」
一郎がせっせと数える。
「国語の漢字の読み書きが4問」
「漢字の読み書きは1問2点だから、2×4=8点」
妙恵が合の手を入れる。
「読解は・・・、なかった」
「そうか。まあいいや。つまりあと8点は取れた。ということは国語の得点55+8=63。平均点が61点だから、偏差値は50を超えるのが分かる?」
「はい・・・」
「わずか4問、正解するだけで偏差値50を超える」
「はい・・・!」
一郎の目も心なしか生気を取り戻したように見えた。
「数学はどうかしら?」
「えっと・・・、70%以上の正答率で×が付いているのが3問ある!」
「数学の小問は一つ5点。つまりあと15点は上がったね。そうすると50点。平均点が53だから、これももう少しで偏差値50に届く」
「おおー!」
一郎が小さく歓声を上げる。
「分かってきた? 正答率70%以上、つまり基本的な問題をわずか3~4問正解できるようになるだけで偏差値は一気に上がる」
ここで妙恵は母親に向き直る。
「一郎君はこれまで勉強をしてきませんでした。しかししっかり1、2年生の復習を行い、基本問題で落とさないようになれれば、平均くらいに届く学力は付けられます」
母親の瞳に希望の光が見えたような気がした。
まあ、全国の中3もみんなこれから勉強を本格化するから正答率も上がってくるけどね、と福永は心の中で注釈を加える。
「さて、今回の模試の合計は199点。とすると、合格ラインの315-199=116点。入試まであと5カ月で116点のマイナスだ。どう思う?」
「ん~、かなりまずいと思います」
一郎の顔が再び暗くなる。
「ではこのマイナスを埋めるためにはどうすればいい?」
「受験勉強を頑張る」
「もちろんそれは一つ。でも、もう一つ、マイナスを埋める方法がある」
「あ、内申を上げる?」
「その通り! 東京都の場合、受験に必要なのは3年生の2学期なんだ。これが神奈川だと2年生の3学期が入るからね。さらに埼玉は中1から成績が受験に関係するんだよ」
親子が顔を見合わせて青ざめる。
「ね、東京でラッキーだったでしょ。つまりここから1か月後の期末テストの結果次第ではまだまだ内申も上げられる可能性がある。ちなみにこれまで一番良かった成績は?」
「中1の最初は社会と音楽が4で体育が5でした」
「取れたことあったんじゃん。じゃ、その時の成績が取れたら内申点はいくつになる?」
「えっと、(音楽4+美術3+技術家庭3+保体5)×2=30+国語3+数学3+英語3+理科3+社会4=46」
「それを300点満点にするから・・・」
一郎が電卓をたたいて答える。
「212点」
「よし。内申212点持った状態で630点に届かせるには当日?」
「630-212=418。÷1.4=298.5714・・・。これは?」
「298点だと足りないってことだから、今度は小数点を繰り上げて」
「じゃ、299点だ」
「その通り。では299点からさっきの模試結果199点を引くと?」
「100点」
「そうだね。このギャップはどう?」
「・・・あんま変わらない。まだ多いな」
「では1教科あたりで考えてみるとどうかしら? 100÷5(教科)=20点。都立入試の小問は一つ4~5点。つまりあと5問くらい正解すれば目安点に届くの」
親子が穴の開くほど模試結果を眺めている。
「どうかな、一郎君。入試本番までおよそ5カ月。1カ月に1問正解を増やすイメージなんだけど、目標までのギャップを埋められそうな気がしない?」
「します!」
即答だった。
<続く>
次回は10月16日更新予定です!


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